素材の鮮度や状態を見極め、お魚が持つうま味や香り、食感などのポテンシャルを存分に引き出した加工品は、卸売りを担うたかのり海産さんだからこそ。中にはユニークな商品もあり、着眼点やアイデアにご主人のセンスが光ります。その背景にある、お父様から受け継いだ技術と、変わりゆく三陸の海と向き合う思いを伺いました。
ふるさとで独立・創業を果たすも、立ちはだかった震災
たかのり海産さんは、築地の仲卸業者で働いていた佐々木貴範さんが、自身の経験を活かして2000(平成12)年に立ち上げた会社です。大槌町の魚市場に水揚げされる魚介類を全国に出荷し、干物などの加工品も手掛けています。
ふるさと大槌町にUターンしてきたのとほぼ同時期に創業し、お父様の背中を追いつつ一緒に仕事をするようになりましたが、2011(平成23)年に東日本大震災が発生し、安渡地区の海沿いにあった加工場が全壊。住まいや仕事を探すため、佐々木さんは一度大槌を離れなければなりませんでした。
幸い、震災の年の冬には仮設の加工場が建ち、佐々木さんは再び大槌へ。2016(平成28)年に加工場兼事務所の再建を果たしました。
父から受け継ぐ新巻鮭と、市場の魚を無駄なく食べるアイデア
たかのり海産さんの看板商品の一つは、大槌発祥とされる名物「新巻鮭」。幼い頃からお父様の仕事を見続けてきた佐々木さんの「新巻鮭」は、サケを積み上げるように塩漬けにする「山漬け」の手法を受け継ぎ、締まった身と凝縮された深いうま味が特徴。築地にあるサケ専門店の店頭にも並び、お客さんの評判を得ている商品です。
「メインの仕事である鮮魚の出荷の傍ら、干物などの加工品を手掛けています。もともとは、市場に揚がった魚を無駄なくおいしく食べてあげたいという思いから始めましたが、町外のイベントで販売したところ、お客さんにとても喜んでもらえて。気づけば、色々商品が増えていましたね」と、照れくさそうに笑う佐々木さん。
大槌で養殖されたサーモンを燻製風味のタレに漬け込んだ「なんちゃってスモークサーモン」は、キャッチーな名前も話題を呼び、著名人やアニメファンも愛す一品です。
大槌の文化に立ち返り、変化に対応する商品づくり
かつて大槌町ではイルカ漁が盛んに行われ、東日本大震災以前は年間を通して安定した水揚げがあったと言われています。漁師さんの世代交代なども背景に水揚げは減っていますが、たかのり海産さんはイルカの出荷も手掛けています。
そんなたかのり海産さんならではの商品が「海のジビエ缶詰」。リクゼンイルカを生姜が効いた大和煮に仕上げたものです。こっくりとした甘辛味は、佐々木さんが幼い頃から慣れ親しんだ食卓の味をヒントに考案。食欲をそそる唯一無二の商品です。
もう一つ話題となっている缶詰が、大槌の養殖サーモンを使った新商品「ナカ骨缶」。その名の通り、サーモンを中骨ごとやわらかく煮込んだ缶詰です。こちらは素材のうま味を活かした塩味。大槌駅や道の駅で試しに販売してみたところ、常温で持ち歩けるお土産として密かに話題を呼んでおり、今後の展開が楽しみな商品になりました。
海水温の上昇などを背景に、サケやサンマなどの定番の魚が獲れなくなってきている三陸の海。「新たな商品を模索したり、新しい魚種に対応したり、変化に対応しながらやっていかなければならない。父の行動力に助けられたり、引っ張られたりして完成した商品も多いです」と話す佐々木さん。
「鮮魚の出荷と水産加工、二つの面で、これからも大槌や三陸の魚をPRしていけたらと思っています」と、前を見据えました。
たかのり海産
Takanori Kaisan
商品のラベルデザインも自ら手掛けることがある佐々木さん。趣味が高じて大槌町内のイベントでDJをやったり、アニメを使った町おこしをサポートするなど、マルチに活躍しています。「ただの憧れとか、好きって気持ちで色々やってるだけだよ」とのこと。一見寡黙なお人柄に秘められた、少年のような熱い情熱が時折ほとばしるような…。
- たかのり海産
- 〒028-1102 岩手県上閉伊郡大槌町赤浜1丁目1-226
- TEL 0193-42-8250